カバン - Kaban -  [ ルスィオン地方 サン・ジェニ・デ・フォンテーヌ ]

- 二番通り酒店 -

“カバン

若き二人の青年のピュアでまっすぐな未来へのエモーション

アントワンヌとエリオに出会ったのはバニュルスのLes 9 Cavesのレストランで食事をしている時でした。知り合いと勘違いして私たちに話しかけてきてくれたのが出会いです。どこかで会ったことがあったかなと話をしていましたが、ワインをつくり始めたんだと教えてくれて、もし今あれば飲めるかなと尋ねると一本のロゼを持ってきてくれました。そのロゼはまるでアラン・カステックスのカンタ・マナナのような味わいで驚きました。Les 9 Cavesの人たちにも飲んでみてくれと伝えると皆が同じくカンタ・マナナみたいだと驚いていました。奇しくもアランが亡くなった年。私たちも傷心で訪れたバニュルス。ドメーヌの名前を尋ねるとKABANという名前でした。彼らのカーヴにはアドレスがなくLieu-dit(区画の名前)がCabanne"カバンヌ"と呼ばれていて、まだ30歳と若い二人はCabanneだと長いからCをKに変えてシンプルな名前"KABAN"というドメーヌ名にしたそうです。アランのドメーヌ名Les Vin du Cabanonを思わせる不思議な縁をまた感じました。アントワンヌとエリオはパリ近郊の学校で10歳の時に出会ってからの長い親友。思春期の頃はアントワンヌは学校が嫌いでずっと映画館で働きながらずっと農業をしたいという想いを持っていました。エリオは台湾人の母を持つハーフの青年。両親が花農家を営んでいて、アントワンヌと冬に一緒に働いたりもしていたそうです。二人は農業をしたい夢を叶えて、2018年に南仏ルスィオン地方サン・ジェニ・デ・フォンテーヌに桃の畑4.5haを購入しましたがその時の条件が所有者が持っているブドウ畑も購入することでした。4haのブドウ畑ですが彼らはワインの醸造学校に通ったこともなく、ワインつくりの経験もありませんでした。二人はバイクが大好きなので周辺のワイン生産者をバイクでまわり、ワインつくりを教えてもらおうと思ったそうですが、経験が皆無の彼らに教えてくれる人がなかなかいなかったそうです。そんな中でラトゥール・ドゥ・フランスのシリル・ファルを訪問した時、なにも知識がないけどワインつくりを教えて欲しいとお願いすると、シリルは彼らの背後にあるバイクにちらりと目を向けると、ちょっとついてこいとカーヴに彼らを案内してワインつくりのことを教えてくれたそうです。シリルも大のバイク好きなのです。サロンに出ることもなく、自分の居場所は常に畑にあると、周囲の生産者との交流もほとんどしないシリルは何を思って彼らにワインつくりを教えたのだろう...と想像すると嬉しくなります。まったく何も知らない彼らに逆に大きな魅力を感じたのかもしれません。ピュアな子供のようにワインつくりを貪欲に学ぶ二人にシリルはワインつくりを教えるだけでなく、タンクや選果台、プレス機も譲ってくれたそうです。「まずは健全なブドウ、丁寧な選果が何よりも大切だ」がシリルの最初の教えだったそうです。何も知らなかった彼らに多くの時間を費やしてくれたシリルに二人は心から感謝しているそうです。ワインをつくりはじめたのは2019年にほんの少しだけから始めて2020年も少し。2021年に4000本ほどを生産し販売をスタート。2022年で約8000本を生産しました。4haの畑は4区画にまたがりグルナッシュが2.5ha、ミュスカが0.8ha、残りがシラー。エチケットにはブドウの幹が描かれていて、エチケットの端の三角に切れている部分はドメーヌ名の頭文字"K"を表しています。彼らを見ていると若く真っ直ぐなエネルギーを感じます。美しい青春の1ページを見ているような清々しい気持ちです。ナチュラルワインが広がり多くの若い生産者が生まれる中で、こんな不思議な形でワインつくりを始めた二人に何か魅力を感じます。そして生まれるワインにもその魅力が詰まっていると感じています。

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